エロゲーADVの構造分析序説
何となく思いついたので書いてみる。ちなみに、タイトルはロラン・バルトの有名な『物語の構造分析序説』に準えただけなので、たいした意味はありません。
エロゲーADVの構造を考える際に、忘れてはならないのは選択肢の存在です。選択肢というのは厄介な存在で、選択肢を選ぶという過程を取らせることで、どちらを選ぶか考えさせるというかたちで、プレイヤーに感情移入を強制することが出来たり、重要な場面に選択肢を置くことで、プレイヤーに物語の展開を選ばせることが出来る。
しかし、選択肢には問題もあります。それは、プレイヤーはあらかじめ、どちらの選択肢も選ぶことが出来るということを知っている、ということです。当たり前ですが、例えば「妹と母親が連れ去られて、どちらを助けるか選ばなければならない」とかいう場面があったとする。主人公の立場からすれば、これは究極的な選択であるわけです。「Hunter×Hunter」ではないですが、選べないけれど選ばざるを得ない問い。しかし、プレイヤーからすれば、セーブをしておけば両方とも簡単に選べる選択肢の一つでしかない。それは、そういうことをするかどうか、というのとは別の次元であらかじめの了解事項として存在している。
ということで、本当に重要な選択肢、例えば主人公を後悔させたり、作品の展開を本質的に決定するような選択肢は、主人公に与えてはならないということになります。プレイヤーにとってはどうでもいい選択で主人公にあんまり後悔されると、プレイヤーと主人公の乖離が起こってしまう。それに、あらゆる場面で主人公に出っ張られると、どんな問題も回避されてしまう。JoJoのディアボロではないですが、あらかじめ未来が読めてしまうとずっと絶頂状態でいられるわけです。しかし、当然それでは物語にならない。こういう状況を回避するためには、たとえば本当に重要な場面では、選択肢を出さない、とかいう方法もありますが、こんなことをされると普通にプレイヤーはむかつきます。選択する場面で選択肢が出ないのも腹が立つし、そういう場面でこそ、選択肢はほしいものだ、というのもあるからです。
それならば、どうするのか。例えば、重要な選択は、ゲーム開始前時点では既に起こってしまっている、というのが考えられます。主人公はゲーム開始時の三年前に妹を見殺しにしていた、とかそういうのですね。既に終わってしまった、取り返しのできないことを用意しておく。これは、プレイヤーがどんな選択肢を選ぼうと、どうしようもない。泣きゲーに特有の延々と不幸自慢をするヒロインたち、というのもこれです。まあ、タイムマシンとかループする時間とかいう隠し兵器もありますが。
もうひとつとしては、主人公のいないところで選択が行われる、というパターン。主人公のことを惚れている女の子が二人いるとして、この二人が主人公のいないところで喧嘩をして片方がもう一人を脅して手を引かせてしまう、とかいうやつ。これも、主人公は介入できない。いないところで行われるので当たり前です。これも、主人公の行動を操作することで、女の子二人の喧嘩を阻止する、ということもありはします。
エロゲーADVで重要なこととしては、他に、プレイヤーの視点が語り手の視点に固定されているというのがあります。そのため、エロゲーADVは大体が語り手の、しかも物語内容の時間と物語言説の時間がほぼ一対一に対応するモノローグになる。物語内容の時間というのは、実際に作品内で進んでいる時間のことです。しかし、物語は普通そのままの順番では語られない。途中から語って後で最初のほうを語りなおしたり、テキトーに会話とかをかいつまんで書いたり、ごっそり記述が抜けたりする。そういう語りの時間を物語言説の時間と呼んだりします。物語内容の時間と物語言説の時間がほぼ一対一に対応するというのは要するに、起こったことをそのままの順番でありのままに書く、ということですね。他愛のないどうでもいい会話でも、そのまま再現させる。
これは、キャラクター性とか萌えとかいうやつを表現するにはうってつけの形式ではあるわけですが、欠点もあります。例えば、こういうモノローグはだらだらと一本道で続くので、入り組んだ時間軸の表現が難しい、というか、そういうような語りを語り手が取ることが出来ない。エロゲーADVになぜかループモノが多いのも、実はこの辺に原因のひとつがあるわけです。入り組んだ時間軸を表現するためには、物語の構造自体を弄らざるを得ない。だから、語り手の思考ではなくて、世界自体がループする。また、回想が入ったとしても、回想においてもプレイヤーは語り手のモノローグに付き合うことになるので、自然と回想は長くなりがち。
また同様に、入り組んだ人間関係を表現することも難しいです。三人称小説なんかだと、語り手は登場人物の心理に好き勝手に入っていきますが、エロゲーADVではプレイヤーと語り手は一蓮托生です。そのため、複数人の心理を描くためにはそのたびに語り手を変えざるを得ず、頻繁にされるとうっとうしくてしょうがない。
んで、結論としては、エロゲーADVらしいエロゲーADVというのは「既に起こってしまった事件の解決が主人公のいないところで成されるという展開を持ち、狭い人間関係のだらだらした一本道の話がループや長々とした回想を含みつつ構成される物語」であり、このような典型的なエロゲーADVには既に五年ほど前に『Air』という名が与えられている、ということになります。

