ドラゴンクエストシリーズに見る魔王軍の絶望的な困難

なぜ魔王は世界征服に失敗するのか、あるいは魔王のタイムスケールもんだい。という記事が発端なんでしょうか、RPGなんかに出てくる魔王がなぜ世界征服できずに滅ぼされてしまうのか、というのが話題になっています。この手のネタは昔からよくありますが、取り合えずドラクエシリーズを念頭に置きつつ私も理由を考えてみました。

一つ目の理由として、魔王の支配する魔物の軍勢が、多種族からなる軍隊であることが挙げられるでしょう。スライムとかドラキーとかキラーマシンとか、どこをどう見ても全然関係ないとしか思えない種族が、魔王によって軍隊として徴用されている。このような多種族からなる軍隊の場合、当然のごとく同じ種族の魔物どうしの結束が魔王への忠誠心を上回るわけで、結局のところ、魔王軍は統制も何も無い色々な種族の寄せ集めになり、魔王もさまざまな種族の中で取り合えず一番強いやつぐらいの存在たらざるを得ません。

ローマ帝国を弱体化させた他民族による傭兵部隊のように、魔王軍のような多種族軍の士気は低下し、あたかもそこらへんをぶらついている動物のような存在へと成り下がります。もちろん人間側がそのような状況をほうっておくはずも無いわけで、『ドラゴンクエスト5』などでは配下の魔物たちがどんどんと切り崩されていき、魔王軍はいわば内側から崩壊することになるわけです。

この問題を避けるために必要なのは、マキャベリが正確に指摘しているように「国民軍」を創設することでしょう。要するに、魔王本人と同じ種族によって軍隊を構成する。ドラクエシリーズにおいては『ドラゴンクエスト1』の竜王がそのような方法を取り入れていました。ローラ姫をさらったのはドラゴンでしたし、竜王の城の周りにはドラゴンの部隊が配置されています。世界征服こそ不可能だったものの、竜王は子孫に王の位を継がせることで百年後の『ドラゴンクエスト2』の時代に至るまで一定の国力を維持することに成功しています。

二つ目の理由としては、外交活動を行うことが不可能であることが挙げられます。歴史上どのような大国でもそうですが、周りのあらゆる国を敵に回して戦い続けられるような国はありません。そのため、外交によって戦争を回避したり、仲間を作ったりするわけですね。魔王にとってもその点はおそらく同じであるはずで、「魔物」というアイデンティティを共有するほかの種族に対しては、前述のように問題があるとしても配下としえたわけですが、人間を配下にするだとか、人間の国と同盟を結びほかの国を滅ぼすといったことは魔王にとってほとんど不可能なことであるようです。『ドラゴンクエスト4』のバルザックみたいな一部の悪人が魔王の配下につくことはわずかにあるようですが、人間と魔物の敵対関係は決定的であり、妥協の可能性はありえません。

そのような外交の不可能性が生み出すのは、人間は絶滅させなければならない、あらゆる人間の国と同時に戦い続けなければならないという状況です。各個撃破することも出来ず、軍隊から村人まであらゆる抵抗を世界中で受け続けるというのは、魔王軍にとって著しい負担となります。そのうえ勇者パーティのようなテロ組織や、それを公然と支援するテロ支援国家まで存在するわけですから、どうしようもありません。『ドラゴンクエスト7』のオルゴ・デ・ミーラは、人間を各個撃破するために世界をばらばらに分割するという荒業を使うことにより、ドラクエ史上最も世界征服に近づいたというかむしろ、一時期は完全に世界征服を成し遂げた魔王となりました。

さらに決定的な問題として、魔王軍は人間ばかりではなく、神族やら妖精・精霊といった超越的な能力をもつ種族をも敵にまわしていることが挙げられます。これらの種族は人間と比べると規模が小さいものの、勇者パーティに強力な武器をあたえたり教会を介することによって彼らに無限の命を与えていますし、マスタードラゴンおよび天空城は常に魔王を滅ぼすための決定的な役割を果たしています。実際、ルビスを封印した『ドラゴンクエスト3』のゾーマにせよ、天空城を封印しダーマ神殿を撃ち滅ぼした『ドラゴンクエスト6』のデスタムーアにせよ、彼らのような超越的な能力を持つ種族をどうにかすることによってようやく世界征服に乗り出すことが出来るといった具合なのです。

最後に簡単にまとめましょう。魔王が世界征服出来ないのは、多種族による寄せ集めの軍隊であるために士気が低く、そのような軍隊によって人間や神族のようなあらゆるほかの種族との多正面戦争を強いられるからであるといえます。しかし、このような文章を書いているとやたらとドラクエがプレイしたくなりますね……